2026年10月13日
入学から半年。1年生2人が、全国の表彰台で大きな一歩を刻みました。
第42回U20日本陸上競技選手権大会(2026年10月3日〜4日/静岡・草薙総合運動場陸上競技場)の女子ハンマー投で、大東心春(おおひがし こはる)選手(こども発達学科1年/玉野光南高出身)が56m34を投げて初優勝。男子砲丸投(6kg)では、前出春信(まえで はるのぶ)選手(体育学部 競技スポーツ科学科1年/亀山高出身)が自己ベストの17m40で3位表彰台を獲得しました。
| 種目 | 順位 | 氏名(学科・学年) | 記録 |
|---|---|---|---|
| U20女子ハンマー投 | 優勝 | 大東 心春(こども発達学科1年) | 56m34 |
| U20男子砲丸投(6kg) | 3位 | 前出 春信(競技スポーツ科学科1年) | 17m40 |
■ 大東心春 ― ザラザラのサークルで、勝負をかけた5投目
U20日本選手権は、オリンピックやアジア大会への登竜門とされる大会です。投擲種目の出場枠はわずか13名。他の種目に比べて高い標準記録を突破した精鋭だけが立てるこの舞台を、大東選手は今季最大の目標に据えてきました。9月の日本インカレで1年生ながら決勝に進んだ実績を背に、優勝候補としての挑戦でした。
当日のサークルは表面がザラザラとして滑りにくく、多くの選手が苦戦する難しい条件でした。その中で大東選手は1投目から54m近い記録をマークし、自ら試合の主導権を握ります。
ただし、課題も見えていました。サークルの影響もあり、回転の後半でハンマーの加速が鈍っており、片足指示の姿勢で若干身体が浮いてしまい、推進力をロスしていました。そこで大東選手は、「右脚の使い方を工夫すれば対応できる」と次の1本をどうするかイメージを立て、試合の中で修正していきました。決勝進出後の後半に投げがまとまり始めた手応えを胸に、勝負をかけた5本目が56m34。この日の優勝記録となりました。
競技人生で初めての全国タイトル。表彰後、大東選手は「これまでの中で一番うれしい。IPUに来てよかった」と笑顔を見せました。


■ 51mからU20歴代7位へ ― 半年での飛躍
玉野光南高校時代はインターハイ5位。恩師・森雄二先生の推薦を受けて本学へ進学した大東選手は、入学後、試合のたびに記録を塗り替えていきます。高校3年時に51m台だった記録は、5月に55m台、9月の日本インカレでは57m68となり、本学新記録を樹立。大学1年生日本歴代7位の記録を持つまでになりました。
| 時期 | 大会 | 記録 | 成績 |
|---|---|---|---|
| 2025年 | インターハイ(高校3年) | 51m台 | 5位 |
| 2026年4〜5月 | 入学後の試合 | 55m台 | — |
| 2026年9月 | 日本インカレ | 57m68 | 7位・本学新記録 |
| 2026年10月 | U20日本選手権 | 56m34 | 優勝 |
練習ではすでに60mに迫る投擲も見せており、将来的には60m大台を視野に、さらなる活躍が期待されます。
■ 「教わる」から「問いを立てる」へ ― 急成長を支えたトレーニング
半年での飛躍を支えたのは、練習の「量」よりも「向き合い方」の変化です。高校時代まで、ハンマー投は「指導してもらうもの」だったという大東選手。大学では、自分の投げに自ら問いを立て、試し、確かめることを繰り返してきました。
その循環は、日々の練習の中に組み込まれています。
- 数字で問う:ウエイトトレーニングでは、何kg持ち上げたかだけでなく、その重さをどれだけの速度で動かせたかを計測します。速さが落ちたのはなぜか。その問いが、次の一本の狙いになります。
- 根拠に問う:論文などの研究データをもとにした資料で、なぜこの練習をするのかを理解したうえで取り組みます。
- 感覚で問う:重さの異なるハンマーを投げ分け、加速の感じ方の違いを自分の体で確かめます。
- 動きを言葉にする:運動モルフォロギー(動きの「かたち」を観察・記述する学問)の視点から、自分の動作の感覚を捉え直し、言葉にしていきます。
技術の探求でも、同じ心構えが生きています。日本学生個人選手権の男子ハンマー投で優勝した坂梨航琉選手(大学院2年・自己ベスト67m54)らと同じサークルで練習を重ね、スイングの軌道やハンマーを加速させる区間について議論を交わしてきました。和気投擲場では、科学的な視点や動作の視点からの会話が、学年を超えて日常的に飛び交っています。
U20日本選手権の当日、加速の鈍りに気づき、「右脚の使い方」という解決策を自ら導き出したこと。それこそが、問いを立て続けてきた半年間の成果でした。


■ 前出春信 ― 投法を変えた1年目!初の表彰台!!
前年の同大会では高校生として5位(16m68)。大学で迎えた2度目のU20日本選手権で、前出選手は記録を自己ベストを更新し、見事表彰台に上がりました。
| 順位 | 氏名 | 所属 | 記録 |
|---|---|---|---|
| 1 | 赤澤 瑠依 | 筑波大 | 18m25 |
| 2 | 川崎 裕太 | 岡山商大附高 | 17m75 |
| 3 | 前出 春信 | 環太平洋大 | 17m40 |
| 4 | 藤森 駿介 | 敬徳高 | 17m02 |
実はこの上位4人は、いずれもIPUのグラウンドで投擲の基礎を学んだ選手たちです。地元・岡山だけでなく県外からも足を運び、砲丸投回転投法の基礎を身につけました。所属は異なっても、U20世代の上位をIPUで育った選手が占めたことは、本学の投擲指導が所属の枠を超えて日本の育成年代を支えていることの証です。

■ 回転投法への転向を支えた、軽量砲丸での「スピード」づくり
前出選手は高校までのグライド投法から、大学入学と同時に回転投法へ転向しました。回転投法は世界の主流で、比較的小柄な日本人競技者にも有効とされる一方、身につけるまでに時間がかかる難しい投法です。
その習得を後押ししたのが、軽量砲丸「ウォルショット(Walshot)」を使ったトレーニングです。砲丸の飛距離をもっとも大きく左右するのはリリースの速度です。また、動作のスピードは育成年代に大きく伸ばせる一方、意識して高めなければ伸びにくい要素とされています。本学の投擲ブロックでは、U20世代のうちに「スピードの上限」を引き上げることを重視しています。
ウォルショットは、中身を入れ替えることで同じ大きさのまま重さを変えられるトレーニング用砲丸です。軽い砲丸では、正規の重さでは出せない速度で投擲動作を繰り返すことができます。約27%軽い砲丸でも投擲の動作パターンは崩れないという研究もあり(Dinu et al., 2014;Klein et al., 2024)、「本番と同じ技術を、本番以上の速さで」練習できるのが特長です。
前出選手は、軽い砲丸で速い動きを繰り返す中で、回転投法の流れやリズム、砲丸を弾く感覚を身につけていきました。競技スポーツ科学科の学生らしく、自身の記録や動作を測定・分析し、なぜ伸びたのか、何が課題なのかを自ら解き明かそうとする姿勢も大切にしています。

■ 先輩・泊瑶平の背中を追いかけて
前出選手には、身近に大きな目標がいます。2026年の日本インカレ男子砲丸投を制した泊瑶平選手(体育学科4年)です。泊選手もまた、大学入学時にグライド投法から回転投法へ転向した選手です。

投法を変えると前のクセが残りやすく、多くの選手は一度記録が落ち込む時期を経験します(Carson & Collins, 2011)。同じU20日本選手権(6kg)で2人を比べると、その違いが見えてきます。
| 項目 | 泊 瑶平 選手 | 前出 春信 選手 |
|---|---|---|
| 転向前(高校・6kg) | 17m17(2022年 インターハイ) | 16m68(2025年 U20日本選手権 5位) |
| 転向1年目(U20日本選手権) | 16m32(2023年 4位) | 17m40(2026年 3位) |
| 変化 | −85cm | +72cm |
泊選手はその沈み込みを乗り越え、今年日本一に輝きました。一方の前出選手は、転向初年度から記録を伸ばしています。競技歴や体格の違いもあり単純に比べることはできませんが、軽量砲丸で「速く投げる流れとリズム」を先に身につけたことが、移行期の落ち込みを小さくした可能性があります。本学では今後もデータを積み重ね、その効果を確かめていきます。
前出春信選手のコメント
人生で初めて全国大会でメダルを取ることができ、とても嬉しく思います。ただ、それ以上に悔しい経験となりました。1投目をファールしたことで2・3投目に焦りが生まれ、思うような試合展開ができませんでした。赤澤選手や川崎選手と比べると6kgのスピードに対応しきれておらず、スピードの上限の低さも痛感しました。これからは6kgや5kgの投げを練習に取り入れながら、7kg(一般規格)で記録を伸ばし、インカレでリベンジできるよう頑張ります。
3位に満足せず、自らの課題を「スピードの上限」という言葉で語る前出選手。その姿にも、自ら問いを立てて成長するIPUの学生アスリートらしさが表れています。
■ 次なる舞台へ
明るい人柄で多くの人に応援され、先輩たちから「こはるちゃん」と親しまれる大東選手は、60m大台を見据えて中四国の大会や日本グランプリに臨みます。前出選手は一般規格の7kgで記録を伸ばし、インカレでの優勝を目指します。
入学1年目の秋に全国の表彰台に立った2人の挑戦は、まだ始まったばかりです。環太平洋大学陸上競技部のこれからの活躍に、引き続きご声援をよろしくお願いいたします。
■ 結果
大東心晴:女子ハンマー投 優勝
前出春信:男子砲丸投 3位
高橋佑奈:女子100m 8位
藤本望月:女子800m 予選5着
竹中隼人:男子400m 予選3着(全体9位)、男子400mH 予選3着





























