『次世代リーダーにとっての千利休』持続可能な暮らしを実践している井本球さんとともに“自然循環と農業”について考える
今回の対談ゲストは、本学を卒業後に人材ビジネスを展開する大手企業に就職し、現在は独立して自然循環に沿う持続可能な暮らしを実践している井本球さん。そこにマリ共和国からの留学生で故郷での農業事業を夢見るダコ テ ジャン バレンティンくんと、現代経営学科のサコ サリフ先生も加わり、自然循環と農業についての対談を行いました。
井本球さんの経歴と現在の活動
井本 球さん
『earthman』探求担当 兼 ガーデンコーチ
井本さんは2019年に本学の体育学科を卒業し、人材ビジネスを展開する株式会社パソナグループに入社。当時淡路島の地域活性事業に力を入れていた同社の社内ベンチャー「タネノチカラ」で、循環型の農フィールドを通じた教育・研修事業に従事しました。
しかし、その活動の中で、社宅で暮らす自身の生活が本当の意味で循環していないことに矛盾を感じるようになり、「より自然循環に沿う暮らしをしてみたい」と退職を決意。そして2022年に出身地である和歌山県にUターンし、『earthman』という屋号で、自然循環に沿う持続可能な暮らしの実践・発信事業を開業します。
現在は、畑や庭といったフィールドのデザインや施工を手がけるとともに、持続可能な暮らしを体験できる宿『系』も運営。さらにコミュニティ形成と自然・風土・文化の関連性を学ぶためにドイツへの留学も予定するなど、精力的に活動しています。
ダコ テ ジャン バレンティン(DACKO T Jean Valentin) さん
現代経営学科 1年 マリ共和国出身
マリ共和国出身の留学生。将来、故郷での農業事業に携わることを希望。
サコ サリフ(SACKO Salif) 先生
マリ共和国出身
専門領域:経済/政治/国際関係/多文化/英語
大橋 節子 学長
環太平洋大学 学長
博士(人間科学)
“循環型農業”の魅力とは?
大橋節子学長(以下、大橋) 井本さんはパソナに入社して、農業に関わったから今の活動があるの?
井本球さん(以下、井本) そもそもパソナに入ったのは、人の流れが分かれば社会課題も分かるのではないかと思ったからなんです。当時のパソナは地域活性事業に力を入れていたので、そこに次の大きな社会課題があるのだろうと思って配属を希望しました。
大橋 なるほど。
井本 その後やめようと思ったのは、自己矛盾を感じ始めたからです。住んでいた社宅で排水を流すとき、事業活動で「循環って気持ちいいんだよ」と伝えている自分との矛盾に直面し、もっと自分で学んで実地もしてみたいと退職を決めました。
大橋 学生たちにもそんな生き方を考えて欲しいなと思っています。毎日お腹を満たすために食べるって考え方も残念だなと思うの…。
井本 先人の方々がすごく豊かにしてくださった結果、僕たちの世代はそういうものだと思ってしまってる部分はあると思います。もちろん難しさもありますが、僕は命を作ること自体に楽しさも感じてますね。
大橋 すごい。
井本 今は糞尿を土に返すことで完全に循環させ、そこで鶏も飼っています。蒔いた糞尿に虫が来て、それを食べた鶏が卵を産んで僕の手元に返って来ると、「どれが僕かわからない」「自分ってなんだろう」という感覚がしてすごく楽しいです。
大橋 ロマンを感じるんだね?それはすごく面白い考え方。ただ、私も同じことができるかどうかは…。
井本 そこは全員が同じ暮らしを豊かと感じる必要はないと思っています。自己表現として1つの提案をしているので。
大橋 なるほど。ところで岡山ではどんな仕事をしてるの?
井本 中国地方では、個人宅のお庭からご神木の手入れ、森のようちえんの校庭づくりなど幅広い領域での改善や場所作りをしていて、僕はその活動のアシスタントをしています。日本は地下水脈が血管のように張り巡っているんですが、その流れのポイントに処置を施すと、山全体の水の流れが整い、生えている木の葉っぱが立ち上がって、空気まで一気に変わるんです。
マリ共和国と日本の農業の違いと、今後の交流
大橋 井本さんはこれからの世界にすごく必要な仕事してるなと思います。ぜひ留学生のダコくんを紹介したいのですが…例えばマリの干害のなかでも作物が育つのかどうかなど知りたいです。
サコ サリフ先生(以下、サコ) マリの農業に一番足りないのはそういうところ。1年間で3・4カ月しか雨が降らない広い土地では、水の流れが確保できなければ一年中作物を育てられません。
また、農業が基本的なレベルにとどまっているマリにとって、日本の専門知識は貴重なモデルとなる可能性があります。もちろん日本と環境は違いますが、発展途上国として学べることは多いです。特に農地の分析、地域型の自給自足のような知識が重要だと感じました。
大橋 ダコくんのお家も農業をやってるの?
ダコ テ ジャン バレンティンさん(以下、ダコ) 以前はおばあさんが行っていましたが、亡くなった後は誰も後を継いでいません。将来的には私がマリで農業事業に携わりたいと思っています。
井本 おばあさんは、機械は使わず手で作業してた?
ダコ 使っていました。
サコ トラクターぐらいでしょう。大きな機械だと1人で買うのは大変なので、コミュニティでお金出し合って、必要な機械を順番に使うんです。もしそれをレンタルできれば、一つのビジネスになると思います。新しくなくても、日本で中古でいらないものがあれば。
大橋 最近の農業機器はコンピュータ制御されていて壊れると修理が大変だと聞くので、古い機械の方が良いかもしれないね。
サコ そうですね。日本は米の生産が豊かなので。マリの主食も米で、川の水を流して作ってる地域があるんですよ。そういう場所に機械があれば、助かると思います。
大橋 ぜひ今後もお互いに意見交換してください。
サコ 今後、井本さんの活動地域に留学生のインターンシップを検討するとともに、使われなくなった古い農機具を収集してマリの生産を促進するために提供していきたいです。
写真:マリ共和国のBouwéré村 : P.カジエ (CGIAR)
今後は“昔の文化や風習”が見直される日がやってくるかも…!?
大橋 井本さんはどういう夢を持ってるの?
井本 僕は相手の顔が見える範囲のコミュニティが乱立するような日本になったらいいんじゃないかなと思っています。というのも、自然界では木が集まって森ができているように、小さなものが集まって大きなシステムを形作っているんです。反対に大きなシステムから作ってしまうと、変なことになるんじゃないかという思いが強くて…。
それから、一般的には科学的でないとされがちな文化や風習の中にどれだけ科学的な要素が含まれているのか知りたいと思っています。
大橋 科学か科学じゃないかではなくて、まだ発見されてないという考え方ね。かつてのやり方の方がうまくいくこともあるかもしれない。
井本 ですね。僕たちは豊かな時代に生まれていますが、今後は昔から伝わる民族的なことを科学的・合理的に判断し、使えるものは取り入れていく時代になりそうな気がしています。
大橋 なるほど。これからの活躍も期待しています。今日はすごくいいお話が聞けました。ありがとうございました。