前田陽向が1500mで日本人学生歴代4位の快走!
最終学年を迎えた陸上競技部の前田陽向選手(体育4年、洛南)が、その初戦となった日本グランプリシリーズ熊本大会・金栗記念選抜陸上中長距離大会の男子1500mで3分38秒61の好記録で2位に入りました。この記録は日本学生歴代6位(日本人4位)の好記録でした。本稿では、その背景にある、本学スポーツ科学センターの環境を活かした取り組みをご紹介します。

大学2年時に800mで日本選手権3位入賞、3年時の昨年は1分47秒09(日本学生歴代9位=当時)をマークするなど、入学以来、800mの選手として順調な成長を遂げてきた前田選手。一方、洛南高校時代には全国高校駅伝の3キロ区間で区間2位に入り、チームの日本高校最高記録樹立に貢献しています。また、1500mでも高校3年時に3分47秒95(2021年高校ランク13位)をマーク、大学1年時にはU20日本選手権で優勝するなど、大学では1500mを主戦場に戦う選択肢もありました。


しかしながら、前田選手は、早期に1500mに専門化することを避け、毎年、気分転換のように1500mにチャレンジしてきました。それは、前田選手自身が800mの前日本記録保持者である卒業生の源裕貴選手(現・NTN)の影響を強く受け、1分44秒50という目標タイムを掲げて入学したことにあります。また、昨夏のパリ五輪の結果も、まだ1500mに完全移行する段階ではないことを示しています。というのも、800mで準決勝まで進出した選手の大学4年生年代での記録を確認すると、1名が1分46秒台、3名が1分45秒台、5名が1分44秒台と、前田選手が入学時に立てた目標を達成できれば、将来的には、彼が常々口にする「世界で活躍する選手」になることが十分可能なのです。加えて、1500mで準決勝を突破して決勝に進出できるかどうかの一つの重要な基準としても、800mで1分46秒を切っているかどうかが挙げられるのです。
この、前田選手の目標を達成するための第一歩が、高校3年生の夏、進学先を決定するために来学した4日間の合宿でした。中学時代から800mで常に全国のトップレベルで活躍してきた前田選手でしたが、トップガントレーニングセンターでおこなったウェイトトレーニングでは高重量を一切扱えず、インスパイアでの40秒間のペダリングパワー測定では、中距離選手のほとんどが体重あたり最大11ワットを超えるパワーを発揮するのに対して、前田選手は9ワット台と、長距離選手としても特筆すべき数値ではありませんでした。


それから4年が経過し、入学時に50kgだったスクワット(3RM※)の挙上重量は120㎏まで増加、209回転/分だった軽負荷でのペダリング回転数は234回転/分まで増大、40秒間の最大パワーは体重あたり11ワット台まで到達しました。いずれも特筆すべき数字ではありませんが、スタミナに優れる前田選手にとって、スピードの基盤となるこれらの数値を高められたことは「環太平洋大学を選んだ意味」を体現したものといえます。さらに、高校時代から優れた値を示していた最大酸素摂取量も70mL/kg/分から76mL/kg分まで向上と、スタミナ面での強化も成功しました。なお、このスピードとスタミナのバランスの良い強化が成功した背景には、「洛南高校での3年間が大きかった」と吉岡利貢コーチは考えています。洛南高校でのスタミナ強化のための「当たり前の基準」が前田選手の中で生き続けた結果、スピードを重視したトレーニングの中でも十分なトレーニング量と強度を確保できたものと考えています。加えて、この冬は、課題であったバネの強化を十分にできたこと、さらに、「伸びしろ」として残しておいた爆発的な筋力トレーニングにも着手できたことなど、大学4年生時の源選手のように一気に飛躍を遂げる可能性を秘めたトレーニングができました。
※3回挙上できる最大重量


さて、1500mの日本人学生歴代1位は、今夏の東京世界陸上への出場が有力視されている飯澤千翔選手、2位は洛南高校の先輩であり3000mSCで世界を舞台に活躍する三浦龍司選手、3位は長くこの種目の日本記録を保持し、現在は日本体育大学で中距離コーチを務められている石井隆士先生です。前田選手が、最終学年である今年、本職である800mで目標を達成できたときには、この偉大な3人を上回る学生新記録樹立はもとより、将来的に800mと1500mの両方で「世界の舞台で戦う」ことが現実的な目標となるのです。