IPUのスペシャルな環境をフル活用 平野里歩、日本選手権で自己新記録&7位入賞!
7月4日から6日にかけて開催された日本陸上競技選手権大会で、競技スポーツ科学科1期生の平野里歩選手(2年・中京大中京高)が、予選で自己記録を更新する2分05秒96(今季学生4位)をマークして決勝進出、7位入賞を果たしました。
1ヶ月前の日本インカレでは、学生の大会で初めて決勝に進出したものの、表彰台争いには絡めず7位に終わっていた平野選手。今年の最大目標に掲げていた日本選手権入賞(決勝進出)はかなり難しい状況でした。
課題克服とIPU環境の活用
ランニングフォームが課題の平野選手は、それが原因で長い距離を走るとヒザに痛みが出てしまいます。そんな中で、もう一つの課題であるスタミナの強化を行うために、この春から取り組んできたのがIPUランニングパークのアップヒルトラック※を使った高強度インターバル・トレーニング(HIIT)でした。また、低強度のランニング(いわゆるジョグ)は、IPUスポーツ科学センターが誇る測定施設「インスパイア」での低酸素ペダリングに置き替え、走る距離を限界まで制限してきました。
※ウレタン舗装の世界最長200m傾斜走路(斜度5%)

チャレンジングなトレーニングへの決断
このような制限がある中、日本選手権に向けた最後の3週間、平野選手はトラックでの練習を減らし、低酸素環境でのスプリント・インターバル・トレーニング(SIT)に取り組むことを決断しました。このトレーニングは、前日本記録保持者の源裕貴選手(NTN)やワールドユニバーシティゲームズ日本代表の前田陽向選手(4年・洛南)など、多くの選手が成果を出してきたものです。これまでの選手は、このトレーニングを自転車ペダリングで行っていましたが、日本選手権直前、かつトラックでの練習量が極めて少ない平野選手にとって、このトレーニングまで自転車エルゴメータで行うことはリスクが高く、諸刃の剣でもありました。
そこで平野選手は、トラックでの練習を減らすリスクを軽減しつつ、低酸素暴露の効果を得るため、環境制御室内に設置されたトレッドミルを使用する方法を選択しました。トレッドミルでの高速走行は危険を伴うため、通常は安全ハーネスを着用しますが、重要な試合に向けて、できる限り動きの制約を排除したかった今回は、学生スタッフ3名がトレーニングに付き添う形で安全を確保して行われました。

非常にチャレンジングなトレーニングのため、酸素濃度や速度などの詳細は紹介を避けますが、傾斜をつけたトレッドミルで、30秒間のスプリントを4分間の休息を挟んで4回繰り返すSITを、トラックやアップヒルトラックでのトレーニングと組み合わせて計6回行いました。
トレーニングの成果と予選での快挙
これらの取り組みは、早い段階で効果を発揮しました。低酸素刺激による換気の増大がトラックでのランニングにおける終盤の疲労感にダイレクトに影響し、500m走や600m走といった実戦的なトレーニングで自己ベストを連発。体内が低酸素状態にさらされることによって引き起こされたエネルギー供給能への効果(より多くの乳酸を出せるようになること)によって、トラックでのSITでも好タイムを連発、少しずつ決勝進出の可能性が高まっていることを実感しながらのトレーニングが3週間続きました。

最後の1週間は、今春の日本グランプリシリーズを転戦する中で見つけた「負荷を落としすぎない」独自の調整方法を採用しました。
万全の状態で迎えた日本選手権。予選は、各組2着と、3組行われるレースの3着以降の選手のうち上位2名が決勝に進出できます。平野選手は1組2レーン。同じ組には、日本歴代3位の記録を持ち、高校生の頃から日本の800mを牽引し続ける塩見綾乃選手(岩谷産業)、2023年アジア選手権日本代表の池崎愛里選手(ダイソー)、そして、平野選手の同級生で今年の日本インカレ優勝者である森千莉選手(至学館大学)ら、有力選手が多数集結していました。
予想を少し上回るペースで進んだ序盤。3番手につけたかった平野選手でしたが、「速く感じてしまった」(平野選手)400mを過ぎたあたりでずるずると後退し、最下位までポジションを下げてしまいます。600mを迎える頃には、先頭の塩見選手、その後に続く森選手、池崎選手から15mの差をつけられてしまいます。

この、心が折れてしまいそうな状況でも、「前の選手の疲れが姿勢の変化から見て取れた」と心を立て直した平野選手。700m地点で6位に順位を上げると、4位、5位の選手をあっという間に抜き去り、フィニッシュ間際で2位の選手をわずかに交わすと100分の6秒差で2着フィニッシュ。


フィニッシュ後、惰性で走ることもできないほど力を出し尽くした平野選手は、「幼いころからテレビで見てきた憧れの舞台」で走り続けてきた1着フィニッシュの塩見選手に笑顔で迎えられます。「自分があの舞台に立つ実感が沸かない」と話した平野選手。2組目以降を待つことなく、「Big Q(着順での予選通過)」で見事に今年の最大目標である「あの舞台」決勝への進出を決めました。

中距離選手としての今後
ハイペースで進むレースに食らいついた決勝は7着に終わりましたが、「まだ800m選手になりきれていない」(吉岡コーチ)と語られるように、新しくやれることが山ほど残された発展途上の平野選手。これらに一つずつ取り組むことで、持ち前のスピード(400m自己ベストが54秒90)を活かした800mが完成に近づきます。この夏は「その時に世界で勝負するため」、中距離の本場・ヨーロッパを転戦し、未来の自分を想像する大切な時間を過ごす予定です。
世界を目指す中距離選手のために計画されたIPUの環境をフル活用し、800m1分台、世界への挑戦を続ける平野選手の今後にぜひご注目下さい。
